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後遺障害等級9級の症状と慰謝料

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1.後遺障害等級9級とは

後遺障害等級9級は、該当する症状がもっとも多い後遺障害です。目や耳、鼻から神経系統、内臓、指手足、外貌、生殖器の障害にわたり細かく17に分類されており、労働能力喪失率は35%に認定されています。事故前と比べて約3分の1も働く能力が失われたと判断される後遺障害であり、日常生活の負担も軽視できません。交通事故後に後遺障害等級認定を受けて適切な賠償金額を受け取るためには、症状や賠償額を把握しておくことが肝要となります。

2.後遺障害等級9級の表と解説

後遺障害等級9級は、下記の17つの症状(1号〜17号)を指します。
慰謝料については、表内の自賠責基準(最低保証金額)、任意保険基準(保険会社が提示する金額)、弁護士基準(被害者が本来受け取るべき適切な金額)をご参照ください。

等級 後遺障害 自賠責基準 任意保険基準 弁護士基準 労働能力喪失率
9級 1号
両眼の視力が0.6以下になったもの
249万円 300万円
※それぞれ独自に決定するため、あくまで目安
690万円
※2021年民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準参照
35%
2号
一眼の視力が0.06以下になったもの
3号
両眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの
4号
両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの
5号
鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残すもの
6号
咀嚼及び言語の機能に障害を残すもの
7号
両耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
8号
一耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり、他耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの
9号
一耳の聴力を全く失ったもの
10号
神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
11号
胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
12号
一手のおや指又はおや指以外のニの手指を失ったもの
13号
一手のおや指を含み二の手指の用を廃したもの又はおや指以外三の手指の用を廃したもの
14号
一足の第一の足指を含みニ以上の足指を失ったもの
15号
一足の足指の全部の用を廃したもの
16号
外貌に相当程度の醜状を残すもの
17号
生殖器に著しい障害を残すもの
1号:両眼の視力が0.6以下になった状態
両眼の視力が0.6以下になることをいい、この場合の視力とは裸眼ではなく、メガネやコンタクトレンズで矯正した矯正視力のことをいいます。両眼の視力が0.1以下になると、等級は6級に該当します。
2号:片方の眼の視力が0.06以下になった状態
片眼の視力が0.06以下になることをいい、他方の目には後遺障害が生じないことが認定条件となります。
3号:両眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状の症状が残る状態
半盲症とは、視野の右半分あるいは左半分が欠けて見えなくなってしまう症状です。
視野狭窄とは視野が狭くなることで、視野変状とは半盲症と視野狭窄以外の形で視野がかけることで、視野の一部が点やまだらの形でかける「暗点」が典型症状です。こうした症状が両眼に残った場合が該当します。
4号:両眼のまぶたに著しい欠損が残った状態
著しい欠損とは、両目のまぶたの全部や大部分を失い、両目を閉じた際に、まぶたが角膜(黒目の部分)を完全に覆えないことをいいます。
5号:鼻を欠損し、著しい機能障害が残った状態
鼻に関する後遺障害は、この9級5号にのみ定められています。
鼻の欠損とは、外鼻(顔から出ている部分)の軟骨の全部か大部分を失うことをいいます。
著しい機能障害とは、鼻呼吸が困難になるなど呼吸の働きや嗅覚が大きく損なわれることです。
欠損と機能障害の両要件に該当すると認定されます。鼻の欠損については、「外貌の醜状」(7号12級)に認定される場合もあります。また鼻の欠損が基準に満たない場合には「外貌における単なる醜状」(12級14号)で認定されます。
6号:咀嚼と言語の機能の両方に障害が残った状態
顎の骨や筋肉又は脳や神経に損傷を受け、咀嚼と言語の両方に障害が残ることをいいます。
咀嚼機能の障害とは、一定の固さ以上の食べ物を口の中でかみ砕くことができない状態です。
言語機能の障害とは、子音を構成する4種の語音のうち、1種類の発音ができない場合をいいます。4種の語音とは
・口唇音(ま行・ぱ行・ば行・わ行の音および「ふ」)
・歯舌音(な行・た行・だ行・ら行・さ行・ざ行の音および「しゅ」「し」「じゅ」)
・口蓋音(か行・が行・や行の音および「ひ」「にゅ」「ぎゅ」「ん」
・喉頭音(は行の音)
のことをいいます。咀嚼障害と言語障害のどちらか片方だけに障害が残った場合は、10級3号に認定されます。
7号:両耳の聴力が、1メートル以上の距離では普通の話声を解することができない状態
7号に当てはまる症状は2パターンあり、両耳の平均純音聴力レベルが60デシベル以上のもの、又は両耳の平均純音聴力レベルが50デシベル以上かつ最高明瞭度が70%以下のものをいいます。聴力レベルの指標は、20デシベル以内であればほぼ正常、30~40デシベルであれば軽度難聴(小さな声が聴きにくい)、60デシベルであれば中等度難聴(日常会話に支障あり)、80~90デシベルであれば高度難聴(日常会話ほぼ聞こえない)となります。最高明瞭度とは言葉の聞き取りやすさ(音が聞こえても内容が把握できない場合など)の指標です。
聴覚のみで会話を容易に理解できるのが100%で、30%以下では聴覚のみで会話を理解するのが難しく、筆談や読話(口の動きや表情で予測すること)と高い集中力が必要になります。
8号:一耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり、他耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になった状態
こちらも7号と同じと耳の後遺障害で、一耳の平均純音聴力レベルが80デシベル以上であり、かつ他耳の平均純音聴力レベルが50デシベル以上のものです。
9号:一耳の聴力を全く失った状態
こちらも7号、8号と同じ耳の後遺障害です。
聴力を失った状態とは、平均純音聴力レベルが90デシベル以上となることです。
10号:神経系統の機能または精神に障害が残り、従事できる仕事が相当な程度に制限される状態
一般的な労働能力はあっても、てんかん発作やめまい、手足の軽度麻痺などの症状のために選べる職種が限られるものをいいます。
11号:胸腹部臓器の障害により労働能力に支障が生じ、従事できる仕事が相当な程度に制限される状態
一般的な労働能力はあっても、消化器や呼吸器、循環器など内臓機能に障害が残り、選べる職種が限られるものをいいます。
12号:片方の手の親指または親指以外の2つの指を失った状態
手の指を失うとは、親指であればIP関節(指の中間部分の関節)、その他の指であれば第2関節から先を失ったものをいいます。
13号:片方の手の親指を含む2本の指、または親指以外の3本の指が機能を失った状態
指そのものが失われてなくても、神経が一部切断された場合や麻痺し、動かなくなった場合も該当します。
14号:片方の足の親指を含む2本以上の指を失った状態
足の指を失うとは、足の付け根から先すべてを失うことをいいます。
15号:片方の足の全ての指の機能を失った状態
足の指の機能を失うとは、一部切断された場合や麻痺などで指が使えなくなったことをいいます。
利き足かどうかは関係ありません。両足の全ての指の機能を失った場合は、7級11号に該当します。
16号:外貌に相当程度の醜状が残った状態
外貌とは、頭や顔面や首など、手足以外の日常で露出する部分のことをいいます。
醜状とは、キズや欠損など皮膚が修復された後に残る跡のことをいいます。相当程度の醜状とは顔に人目に付く程度以上で、5cm以上の線状痕がある場合をいいます。
線状痕が3cm以上の場合は12級14号に該当し、それ以下では後遺障害に認定されません。
17号:生殖器に著しい障害が残った状態
生殖器の著しい障害とは、男性は陰茎の大部分の欠損や勃起・射精障害、女性は両側の卵管の閉塞や癒着などの症状が該当し、通常の性交では生殖が出来ない状態になることをいいます。

3.後遺障害は交通事故弁護士にご相談ください

本項では後遺障害等級9級について解説しました。
はじめに労働能力喪失率は35%と説明しましたが、16号の外貌醜状などは「ただちに労働に影響しない、不利益はない」などの反論がなされて基準通りに算定されないケースもみられます。
そうなると、具体的な影響や不利益を立証の上、交渉する必要が生じます。適切な後遺障害等級認定を受け、事故の苦痛に見合うだけの慰謝料を獲得するためには、法律と医療知識に詳しい交通事故弁護士に相談することをおすすめいたします。