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【時事コラム】誤振込されたお金の返金拒否は違法?
銀行でお金を振り込む際、送金する側のミスによって誤振込が発生することがあります。
誤って振り込まれたお金は返すべきだと考える人がほとんどだと思いますが、自分の口座に引き出し可能なお金が振り込まれると、使ってしまう人もいることでしょう。
では、過剰に振り込まれたお金の返還を拒否することは法律上、許されないのでしょうか。
1.山口県阿武町で発生した誤振込事件
2022年4月8日、山口県阿武町の職員が、463世帯分の新型コロナウイルス対策の給付金4630万円を誤って1世帯に振り込んだというアクシデントが発生しました。
誤振込を受けた男性は「お金はすでに動かし、元に戻せない。罪は償う」と返還を拒否しています。
同年5月12日、阿武町はやむを得ずこの男性を相手取り、お金を返してもらうための民事訴訟を提起しました。
2.誤振込を受けたら返金する義務がある
誤振込で受け取ったお金は不当利得に当たるため、受け取った人は法律上の返還義務を負います。つまり、返金拒否は法律上、許されないということになります。
(1)不当利得とは
不当利得とは、法律上の原因なくして得られた利益のことをいいます。
そのことを知りながら利益を着服した場合は、その利益の全額に利息を付して返還する義務を負い、さらに損害賠償責任も負うことと民法で定められています。
阿武町はこの規定に則り、誤振込みをした4630万円に弁護士費用や諸経費といった損害を加えた5115万9939円と、それに対する民事法定利率による遅延損害金の支払いを民事訴訟で請求しています。
(2)返金できなければ差押えを受けることがある
返金すべき旨の判決が言い渡されても返金されない場合は、強制執行手続きにより財産を差し押さえられることがあります。
ただ、阿武町のケースで誤振込を受けた男性は、口座から全額を引き出した上に、勤務先を退職して連絡が取れなくなっているといいます。
そうなると、判決が言い渡されたとしても阿武町がこの男性からお金を回収することは難しいかもしれません。
3.誤振込の返金拒否で生じる刑事責任
誤振込されたお金の返金拒否は、刑法上も違法です。具体的には、以下の罪に問われることになります。
(1)詐欺罪
銀行の窓口で現金を引き出した場合は、銀行の職員を騙したことになるので詐欺罪が成立します。刑罰は、10年以下の懲役です。
(2)窃盗罪
ATMで現金を引き出した場合は、人を騙す行為がないため窃盗罪が成立します。刑罰は、10年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
(3)電子計算機使用詐欺罪
誤振込を受けた口座から別の口座へお金を振り込んだ場合は、電子計算機使用詐欺罪が成立する可能性があります。刑罰は、10年以下の懲役です。
4.時効が成立すると返金義務が消滅する
誤振込されたお金は返金しなければなりませんが、法律には時効という制度も定められています。
(1)民事上の返金義務の時効期間は5年
送金した側が誤振込に気付いてから5年が経過すると、民事上の返金義務は時効消滅します。
ただし、民事訴訟で勝訴判決が言い渡された場合は、その裁判が確定した日の翌日から10年は時効が成立しません。
(2)刑事責任の時効期間は7年
犯罪にも公訴時効という制度があり、詐欺罪・窃盗罪・電子計算機使用詐欺罪については、犯行のときから7年が経過すると罪に問われることはなくなります。
5.分割払いでの返金が認められる可能性もある
時効という制度はあるものの、5~10年にもわたって逃げ続けるのは容易なことではありません。誤振込を受けたら、素直に返金する方が得策であるといえるでしょう。
返金方法は原則として当事者間の話し合いで決めることになるので、一括での返金が難しい場合は分割払いを認めてもらえる可能性もあります。
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