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侮辱罪の厳罰化法案が成立! ネット生活はどう変わる?
2022年6月13日、インターネット上の誹謗中傷対策として侮辱罪を厳罰化する改正刑法が成立しました。
女子プロレスラーの木村花さんが2020年にSNSでの中傷を苦にして亡くなったことなどを機に厳罰化を求める声が高まり、実現したものです。
ただ、誰もが気軽にインターネット上に書き込みができる現在において、侮辱罪の厳罰化は私たちのネット生活に少なからず影響を及ぼす可能性があります。
1.侮辱罪厳罰化の内容
今回の改正で、侮辱罪の刑罰は次のように厳罰化されます。
・現行刑法…「拘留(30日未満)」または「科料(1万円未満)」のみ
・改正刑法…「1年以下の懲役・禁固または30万円以下の罰金」を加える
これに伴い、公訴時効も1年から3年に延びます。
改正刑法のうち、侮辱罪の厳罰化に関する部分は今夏(2022年の夏)にも施行される見込です。
2.侮辱罪厳罰化によって変わること
侮辱罪が厳罰化されることにより、以下のような変化が想定されます。
(1)加害者が立件されやすくなる
これまで侮辱罪の刑罰は、数多くある犯罪の中で極めて軽いものでした。
警察が捜査しようとしても、法定刑が拘留・科料のみの罪については、加害者が定まった住居を有しない場合か正当な理由なく出頭の求めに応じない場合にしか逮捕できません。
厳罰化によりこの制限が撤廃されるため、警察は加害者の身柄を拘束して取り調べることが可能となります。
また、これまでは公訴時効がわずか1年だったので、被害者の特定に手間取っているうちに時効が成立することも少なくなかったはずです。
しかし、公訴時効が3年に延びると警察はじっくりと捜査できるようになります。
ネット上の誹謗中傷が社会問題化している情勢もあり、今後は捜査機関が侮辱罪の加害者を立件することに今までより積極的になる可能性が高いといえます。
(2)損害賠償請求も容易になる
侮辱罪の被害者は、加害者に対して慰謝料など民事上の損害賠償を請求することもできます。
しかし、加害者を特定するための法的手続きが非常に複雑で手間と時間を要するため、容易には損害賠償請求ができないという問題がありました。
この点、捜査機関が積極的に加害者を特定してくれるようになると、被害者自身が法的手続きで加害者を特定しなくても損害賠償請求ができるようになります。
なお、被害者を特定するための法的手続きを簡略化する改正プロバイダ責任制限法が2022年10月から施行される予定です。
このことによっても、被害者からの損害賠償請求が従来より容易となることでしょう。
(3)自分が立件される可能性が高まる
侮辱罪について捜査機関が積極的に対応するようになり、被害者からの損害賠償請求も容易化するということは、ネットを利用する私たちの多くがいつ責任追及を受けてもおかしくないということを意味します。
これからは今まで以上に、ネットに書き込みを行う際には他の人を侮辱しないよう十分に注意する必要があります。
3.侮辱罪厳罰化の問題点
侮辱罪を厳罰化することは、重要な基本的人権のひとつである表現の自由を制限するという側面も有しています。
実際、改正刑法に対しては「正当な批判まで処罰されかねない」という強い批判もあります。
そもそも侮辱罪とは、事実を指摘しないで公然と人を侮辱する行為を処罰するものです。事実を指摘した場合は名誉毀損罪の対象となります。
「侮辱」とは、他人に対する軽蔑の価値判断を表示することをいいます。価値判断というのは主観的な要素なので、侮辱に当たる発言とそうでない発言との線引きを明確に行うことは極めて難しいものです。
しかも、名誉毀損罪には公益目的で真実と証明された発言は処罰されないという規定がありますが、侮辱罪にこのような規定もありません。
そうだとすれば、理論上は書き込みをされた人が「侮辱だ」と感じれば、どのような発言でも侮辱罪による処罰対象になりかねないともいえます。
このような問題があることから、改正刑法では施行から3年後に表現の自由が不当に制限されていないかを検証する条項も盛り込まれています。
4.私たちが心がけるべきこと
結局は、私たちの一人ひとりが良識をさらに深め、他者を思いやってネットを利用するように心がけるしかないでしょう。
改正刑法の目的も、国民一人ひとりの自覚によってネットから誹謗中傷をなくすることにあると考えられます。
もし、ネットで誹謗中書を受けたり、逆に訴えられたりしたときは、弁護士にご相談の上で適切に対処されることをおすすめします。
山口県内で法律問題にお困りのときは、下関・宇部・周南・岩国の弁護士法人ONEまでお気軽にご相談ください。