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車内に子どもを置き去りにした親の責任

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最近、車内に子どもが置き去りにされ、熱中症などで亡くなってしまう事件が相次いで発生しています。
故意に子どもを死なせたわけではなくても、保護者には重い刑事責任が科せられることがあります。

1.子どもの車内置き去り事件は他人事ではない!

以前から、子どもの車内置き去り事件はたびたび発生し、報道されてきました。

従来は、エアコンをつけた車内に子どもを放置して親がパチンコや買い物に行き、戻ってくると子どもがぐったりしていたというケースが目立っていたものです。

最近では、エンジンを切ってエアコンもつけず、飲食店に繰り出す、知人に会いに行く、ラブホテルに行くなどして、長時間にわたって子どもを放置するケースが増えている印象があります。

父親が子どもを保育園や保育所に預け忘れたまま車内に放置したという事件も、2020年以降で3件も発生しています。
保育園の送迎バスの車内に園児が取り残されるという事件も連続して発生しました。
この結果だけを見ると悪質な事件のように感じるかもしれませんが、他人事ではありません。

自動車関連の商社が2022年5月に行ったアンケート調査によると、全国で子どもや孫を乗せて車を運転する人のうち30%は子どもを車内に残した経験があるといいます。
また、幼稚園や保育園で送迎を担当する人のうち7.9%は園児を車内に置き去りにした経験があるとのことです。
さらに、子どもが車内に置き去りにされているところを見かけても、87%の人は何もせず素通りすると答えています。

お子様やお孫様を車に乗せる機会がある方は他人事と考えず、置き去りの危険性と法的ペナルティをしっかりと認識しておくことが大切です。

2.子どもを車内に置き去りにした場合の刑事責任は?

まず、保護者が子どもの身に危険性が及ぶ可能性があることを認識していた場合は、保護責任者遺棄罪が成立します。
置き去りにされた子どもが熱中症になった場合は保護責任者遺棄致傷罪、亡くなった場合は保護責任者遺棄致死罪となります。

刑罰は、以下のとおりです。
・保護責任者遺棄罪…3ヶ月以上5年以下の懲役
・保護責任者遺棄致傷罪…3ヶ月以上15年以下の懲役
・保護責任者遺棄致死罪…3年以上の有期懲役(最長20年)

父親が子ども保育園に預け忘れて放置したケースでは、置き去りの故意がないため重過失致死傷罪の対象となります。刑罰は、5年以下の懲役もしくは禁錮、または100万円以下の罰金です。

幼稚園の送迎担当者が送迎バス内に園児を置き去りにした場合は、業務上過失致死傷罪が成立します。刑罰は、5年以下の懲役もしくは禁錮、または100万円以下の罰金です。

3.子どもの車内置き去りで実際に処罰される?

車内に置き去りにした我が子が熱中症になったとしても大事に至らなかった場合は、取り調べは受けても起訴される可能性は低いと考えられます。
不幸にして子どもが亡くなった場合も、通常は保護者が深く悔やんで反省し、事件を繰り返すとも考えられないことから、必ずしも起訴されるとは限りません。
起訴されたとしても、前科がなければ執行猶予付き判決となる可能性が高く、その場合は執行猶予期間を無事に過ごせば刑務所に行く必要はなくなります。

ただし、悪質なケースでは起訴される可能性が十分にありますし、懲役の実刑判決が下された実例もあるので軽く考えることはできません。
なお、2021年に保育園の送迎バス内に園児が取り残されて熱中症で亡くなった事件では、園長と保育士が業務上過失致死罪で起訴され、執行猶予付き禁錮刑判決が言い渡されました。

保育園のケースでは社会的な反響も大きいですし、遺族の処罰感情もあるので、起訴される可能性は高いといえます。

4.子どもを不幸な事故から守りましょう

多くの親御様は我が子を適切に守っていることと思いますが、「うっかり」はいつ発生してもおかしくありません。くれぐれも注意が必要です。
我が子ではなくても車内に取り残され、ぐったりしていたり苦しんだりしているお子様を見かけたときは、躊躇せず他の人に知らせるか、警察に通報しましょう。
場合によっては車の窓ガラスを割っても構いません。その場合は緊急避難が成立するので器物損壊罪に問われることはありません。

車内置き去りの危険性をしっかりと認識し、子どもを不幸な事故から守っていきましょう。

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